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法話コラム ウグイス谷から

住職 佐山拓郎

VOL.131 住職佐山のコラム(2018夏号)

先日出版された、私の著書『流されない練習』について、出版社から、「重版されるまでには至っていないものの、好評をいただいている」と連絡があった。有難い話である。

自分に自信を持ち、世間に流されなくなるための、ちょっとした練習を、仏教や浄土宗の教えをベースにして紹介している。手前味噌だが、私自身の苦しんだ経験や、僧侶となってからの様々な学びが詰まった、良い本だと思っている。

 

その『流されない練習』の、ある章で、私は「仏教は、許しの宗教」だと書いた。日本の仏教はとても寛容な考え方で、日本人の習慣や習性に、とても合っている。

日本人は、年越しの際は神社に初詣に行き、バレンタインデーに告白し、夏には盆踊りを楽しみ、ハロウィンで仮装して、クリスマスも盛大にお祝いする。色々な意見があると思うが、私はとても素敵な事だと思っている。

自分の考えとは違っても、それを否定するのではなく、許す事。相手を許す事で、自分も楽になる。お互いが無理をしない事で、苛立ちや怒りの感情も抑えられ、平和に過ごせるようになるのだ。

 

この許しの文化は、私の故郷である下町に、古くから根付いている。昼間から飲み歩いているようなろくでなしや、稼いだ金を全部ギャンブルに使ってしまうような、どうしようもない人でも、下町の人は「まったく、あいつはしょうがないな」と言うだけで、なんとなく許してしまう(もちろん、程度によっては許さない人もいるだろうが)。

個人商店や職人の多い土地柄ではないだろうか。売れない浅草芸人にも、下町の人たちは優しい。その代わり、地元の出身でも、実力もないくせにでかい顔をしている奴には厳しい(あまり大きな声では言えないが、笑点の一番新しいレギュラーの人とか)。でも、厳しさも含めて愛情の裏返しである。下町の人は照れ屋なので、直接的に地元を自慢したりしない。本当は、彼が大喜利メンバーに選ばれた事が嬉しいのだ。

 

「男はつらいよ」の寅さんや、『こち亀』の両さんを思い出していただくと、分かりやすいかもしれない。寅さんも両さんも、家族やまわりに迷惑をかける事もあるが、最終的には許されてしまう。「まったく寅さんはしょうがないな」という感じで、二人とも、下町の温かい心で許されてきた(両さんは左遷されたりもしているが、いつも翌週には戻っている)。これは、二人も色々な事をおおらかに許してきたからではないだろうか。

 

私も今後、ろくでもない事を言ったり、書いたりする事も、たくさんあると思う。その時に、「まったく佐山はしょうがないな」と、許してもらえるように、精進していきたい。

連載記事アーカイブ

  • ウグイス谷から
  • 仏教手習い草紙
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  • 寺宝探訪記

ウグイス谷から 住職 佐山拓郎

前住職 佐山拓郎(第40世 平成26年~令和3年)

昭和のある年の秋彼岸、東京下町の小さなお寺で生まれる。
前職はサラリーマン。縁あって目黒の羅漢寺の住職となる。

仏教手習い草紙 執事 福田貴宏

執事 福田 貴宏

体験日記 執事 無垢品宗生

現住職 無垢品 宗生(第40世 令和3年 晋山)

縁を大切にしたいと人気声優と手紙のやりとりを続け、
今年の1月には彼らが司会を務めるラジオ番組にも出演する。

寺宝探訪記 執事 堀研心

執事 堀 研心