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仏教手習い草紙

執事 福田貴宏

VOL.129 庚申塔(こうしんとう)-前半-

 庚申塔、または庚申塚と呼ばれる石塔や社(やしろ)が全国各地で見られます。お寺や神社、道路、交差点など建立されている場所もさまざまです。仏教語ではないのですが、仏教もかかわりがあり、なにより五百羅漢寺にも庚申塔があるので選んでみました。

 まずは「庚申」の意味です。甲乙丙丁戊己庚辛壬癸と数える「十干(じっかん)」と、子丑寅卯辰未午未申酉戌亥の「十二支」を組み合わせて、60を周期とする数え方があります。年、月、日、時間、方角などを表すことが多く、年の単位でいえば60年に一度回ってくる丙午(ひのえ・うま)が有名です。他に戊辰(つちのえ・いぬ)の年に起きた戊辰戦争、甲子(きのえ・ね)の年に建設された甲子園などがあります。庚申塔の「庚申」は「かのえ・さる」と読み、日の単位で60日に1度巡ってくる「庚申の日」に由来しています。
 ちなみに、あなたの干支(えと)は?と尋ねられた場合、子(ねずみ)年や未(ひつじ)年など十二支で答えるのが一般的ですが、干支は干と支の字を使っていますので、本来は丁酉(ひのと・とり)や甲寅(きのえ・とら)などと答えるのが本当の正解です。また、数えで61歳は、60年周期の暦(こよみ)でまた最初に還ってきたことで還暦といいます。

 話を戻して、庚申の日に関する話は、中国の道教の中に出てきます。それによると、寿命をつかさどる天帝がいて、人間が生まれると同時に、「三尸(さんし)」と呼ばれる3匹の小さい虫を、人間の体の中に送り込み、その人間が死ぬまで住まわせるそうです。三尸には大切な仕事があります。人間の行いを見張り、60日に一度くる庚申の日の夜中、人間が眠っている間に天帝に報告する、という役割をもっています。報告を受けた天帝は、「人間が悪事を働いた場合、大きい悪事だったときは300日、小さい悪事なら3日の寿命をその人間から削る」のだそうです。三尸は、人間が死ぬまでこの仕事を続けなくてはなりません。しかし逆に、人間が死んでしまえば仕事が終わり、自由になれるのです。もし人間が長生きすればするほど仕事も長引いてしまいます。先ほどの話、人間の寿命を削ってもらうことは願ってもない大チャンスです。たくさんの寿命を削り取ってもらおうと、庚申の日に向け見張りを続けます。

 ところが、人間にとっては大ピンチです。三尸が天帝にチクリに行くと、自分の寿命が減らされてしまうかもしれないのです。いや、嘘でもなんでも言って減らすにちがいない。この両者の戦いはいかに・・・つづく

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