住職 佐山拓郎
先月、三笠書房の「知的生きかた文庫」というシリーズから、『流されない練習』という、私の初の著書が発売された。全国の書店や、amazonなどインターネット、そしてもちろん、五百羅漢寺の売店でも販売している。税込650円。会社員時代の経験や、僧侶となってからの学び。そして、住職として積み重ねてきたことなど、現在の私の総決算ともいえる内容となっている。少しでも、多くの方の目にふれるといいな、と思う。
自分名義の本を出すというのは、子供の頃から漠然と持っていた夢でもあった。ひょんなことから、その夢が叶うことになり、なんだかまだ実感がないような気もしている。
私が投稿していた「フリースタイルな僧侶たち」の「しりとり法話」や、僧侶への相談サイト「hasunoha」での回答、そしてこの「らかんさん」での連載などが、編集部の目にとまり、今回の依頼となったのだという。有難い話である。
会社員時代、疲れきっていた私は、縁あってこの五百羅漢寺の執事となった。管理職だった会社員時代と違い、以前の住職や先輩方の言う事を聞いていればよい状況となり、(こんな事を言うと怒られてしまうかもしれないが)しばらくは気楽な立場を満喫していた。
だが、そのうちに、なんとなく満たされない気持ちになっている自分に気づいた。以前に感じていたストレスからは解放されたものの、心のどこかに、隙間が空いているような感覚。
そんなある日、ぼんやりと見ていた「M-1グランプリ」で優勝したあるコンビが、テレビカメラの前で、はばかる事なく号泣する姿を見て、私はその感覚の正体を理解した。
「今の自分が、何か目標を達成し、人前で泣くことなど、まずないだろう」
「目標に向かって努力し、それが報われて、泣くことができるなんて、うらやましい」
「このままではいけない。私も、何か打ち込めることを探さなければ」
居ても立ってもいられなくなった私は、とりあえずパソコンの前に座り、「若手僧侶」と検索した。そこには、自分にしかできない使命をとっくに見つけ、イキイキと活動している若手僧侶が、あふれていた。
こうして、「仏教に馴染みのない方に、わかりやすく仏の教えを伝えていく」という、私の目標は生まれた。「なんとなく満たされない」という思いが、M-1グランプリによって具体化し、前進してきた結果、いつしか私は五百羅漢寺の住職となり、本を出すという夢まで叶った。
前進し続けていることで、良縁は結ばれる。自分の心の声に気づき、その声を無視しないことで、それが形になることもあるのだ。
奇跡のようだが、私が体験した実話である。
前住職 佐山拓郎(第40世 平成26年~令和3年)
昭和のある年の秋彼岸、東京下町の小さなお寺で生まれる。
前職はサラリーマン。縁あって目黒の羅漢寺の住職となる。
執事 福田 貴宏
現住職 無垢品 宗生(第40世 令和3年 晋山)
縁を大切にしたいと人気声優と手紙のやりとりを続け、
今年の1月には彼らが司会を務めるラジオ番組にも出演する。
執事 堀 研心